中小IT企業の新事業としての独自サービス展開

第3回:新事業としての独自製品・サービスのビジネスモデル

(公財)横浜企業経営支援財団 IoT窓口相談員
矢野 英治

2018/10/03

 前回のコラムでもお知らせしたとおり、新しい技術を利用するためのハードルは非常に低くなっています。

 IBMは人工知能Watsonの一部APIを無料で利用できるようにしました。IoTに必要なセンサーや小型コンピュータのRaspberry PiやArduinoも数千円で購入することが可能です。さらには、フィンテックの基盤であるブロックチェーンや自動運転のためのシミュレータソフトまでもがオープンソースとして公開されています。

 このような状況の中、下請け構造の未来に不安を持つ企業においては、独自製品やサービスを検討・企画するために、社内の新しいものが好きな技術者数名を割り当て、新たな技術を調査し、プロトタイプを開発する取り組みが行われ、実際に新製品やサービスを提供する企業も増えています。

 しかしながら、新製品やサービスのビジネスは成功しているとは言い難く、全社的なビジネスの中では、主軸のSESや請負の事業に比べると、その売上割合は比べ物にならないくらい低い現状が見えてきます。

 例えば、年間売上30億円のSESや請負がほぼ100%を占める企業で、新技術を活用した新規事業を立ち上げる場合に、新たに600万円を投資しプロトタイプを作成したとします。加えて、年間600万円のマーケティング費用を割り当てます。展示会などで見込み客と接し、プロトタイプをカスタマイズし、カスタマイズ費用がまかなえる程度の価格で販売、さらに、次の顧客を見つけ、同様のことを繰り返します。

 新事業単体で見ると、投資した分の回収はなんとか行えているような状況になっていますし、その後についても、売り上げが、初年度600万円だったものを次年度には1,200万円と売り上げを2倍として、利益率も大きく向上されれば、新事業を担当する部署はきちんと目標を達成しているように見えます。

 しかしながら、これで新製品や新サービスを新たな事業の軸とするという戦略を達成することは出来ているでしょうか。数年後に売上を10倍にしたとしても、年間6,000万円の売上は、全体の2%を占める程度で、新事業と言えるようなものではありません。

 ここで重要なのは、新技術を利用して独自製品・サービスの事業化を実現するという経営層のコミットメントと企業戦略の中での新事業の位置づけを社員へ展開することだと考えます。また、このコミットメントの元、事業計画を策定し、目標管理を継続しない限り、多数のプロトタイプ開発やビジネスとは呼べないような製品化が繰り返されてしまいます。

 これまでSESや請負事業を中心に行ってきた企業においては顧客接点が少ないため、ターゲット顧客や製品・サービスが提供する価値を明確にすることは難しいと思います。また、市場規模を想定したり、販路を想定したりすることも難しいと思います。

 しかしながら、新しい技術を利用した事業計画は不確定要素が非常に多く、事業計画の策定に慣れた企業でも難しい分野になります。このような場合には、最初に策定する計画の良し悪しよりも、状況をきちんとモニタリングし、状況に合わせて計画を柔軟に微調整していく力をつけることが長い目で見た競争力につながります。

 STPやSWOT、5フォース、ビジネスモデルキャンバスなどのフレームワークの説明はいろいろなところでされているのでここでは説明しませんが、こういったフレームワークを試行錯誤しながら使ってみることが、自身の計画するビジネスの良いところや落とし穴を見つけることにもつながるので、ぜひとも利用してみて欲しいと思います。

 次回は、事業計画の策定や、プロトタイプ開発や販路開拓の支援などを受けることが出来る、「新事業展開に活用できる行政や支援団体の支援サービス、補助金、制度の紹介」というテーマでお伝えします。

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