~これからの10年間を見据えて~

第4回:スマートファクトリーロードマップ

(公財)横浜企業経営支援財団 IT・IoT技術アドバイザー/ものづくりコーディネーター
山崎 隆

2021/2/25

1.はじめに

私が担当させていただいたコラムも今回が最終回となりました。当初はコラムのタイトルにもあるように10年後を見据えたスマートファクトリーのありようについて触れていければと考えていましたが、コロナ禍での可及的なテーマのご要望のため、直近の身近なテーマを取り上げることが多くなってしまいました。コロナワクチンの先行接種も始まり少し明るい兆しが見えてきたことと、本来お伝えしたかったことを発信する最後のチャンスとなることから、今回は中長期視点で10年後を見据えたスマートファクトリー化について触れてみたいと考えます。

2.スマートファクトリーロードマップ

添付は今後10年間を視野に入れたスマートファクトリー化のロードマップです。市場レベル、商品レベル、技術レベルに於いて起こるであろう変化をまとめてみました。大変詳細なチャートとなってしまいましたが、その中からいくつかキーテクノロジーの動きについて触れてみたいと思います。

3.データ活用

有益な情報を見極め、収集し、状態を可視化し、得られた気付きや知見、ノウハウを蓄積するステップ等を第1ステップとすると、その次は、膨大な情報を分析・学習し目的に寄与する因子の抽出や事象のモデル化を行い将来予測ができることが第2ステップになります。大量なビックデータをどのように活用し将来に向けて活かすかのステップです。例えばAIを用いた予知保全等がそれにあたります。
さらに、第3ステップでは、第1ステップで蓄積した知見・ノウハウや、第2ステップの構築したモデルによる将来予測をもとに、適切な判断・実行が可能になるといったデータによる制御・最適化が出来るステップになります。自動制御や設備稼働の最適化が能動的に行われること、フィードフォワードできることが長期的なゴールになると考えます。

製造現場のデータは大きく分けると設備からのデータと、作業員の方からのデータになります。設備のPLCやシーケンサからのデータにより設備稼働率の入手は現在よく行われていますが、一方、人の稼働率に対する精緻な見える化は円滑に進まない状況が散見され、経営者の方々はむしろこうした人の稼働率の見える化を求めているケースが多いです。やはり初心者と熟練者の差は大きく、なんとか全体の底上げをしたいという声が聞かれます。
マスカスタマイゼーション、多品種少量生産や単品生産が進む中、実際の設備稼働率はあまり問題にならず、むしろ小ロットを頻繁に流すための段取り替えの手間が生産性を左右するケースが多くなってきています。そして最終的には、設備・人の稼働率の統合した分析・予測がおこなわれ、適切な判断がなされ、自立最適化が図れることがゴールになると考えられます。

続いて、データの種類によっての課題感と将来の方向性について触れたいと思います。 IoTの例えばセンサーからのデータはいわゆる非構造化された生データとなっています。 温度、湿度、振動、加速度などのデータに加え、動画・画像、音声などが非構造化データです。

一方、生産計画、資材所要量計画、在庫調整、原価管理、発注業務等の生産管理のデータはエクセルのようなスプレッドシートの構造化されたデータで、IoTがうまく進まないのは、こうした構造化データと非構造化データが融合できないことが原因だと考えています。よくIoTの投資対効果が見えない等の話が聞かれますが、こうした理由が一因かもしれません。

これを打破するために、まずはIoTのデータをMES(Manufacturing Execution System):製造実行システム ERP(Enterprise Resource Planning):基幹業務システムと連携し、非構造化データにより生産工程を調整し稼働させるための仕組みが出現すると期待されます。また市場動向のデータや販売管理データ、配送データ、保守データ、在庫データを加味したAIソリューションにて生産量を決定し、部材の発注をかけるといった無人の生産管理システムも出現するものと考えられます。

4. AI活用

AIのモデルは多岐に渡り、それも日進月歩です。認識率を高めるためにハイブリッドで用いたりもしています。
この辺がAI技術者の腕の見せ所ですが、一方、現在、一般的な最適なモデルを選択するツールも出てきており、高度なAI技術を持たない私どももこうしたAIモデルが利用できるようになってくると考えられます。

ただしここでも実は問題があります。私が携わったAI開発案件では、教師データを増やすことにより着実に認識率が上がり、例えば画像認識等で95%の精度で言い当てられるようになりました。ただし問題は、残りの5%が問題で、人であっても迷いそうなグレーゾーンを誤認識するのは許されるかもしれませんが、明らかに良いものを悪く判断したり、その逆だったりと、なぜそのようなことになるのか理解不能なケースが散見されました。また、あってはならないエラーもあり、実は最も進んだAIソリューションを提供する人たちは、認識率を上げるより、5%の明らかな誤りをどう取り除くかに苦労しています。

また、AIによる検査の自動化等のソリューションも進んでいますが、実はAIというのは複数の種類の欠陥を認識して抽出することには長けていますが、その欠陥の大きさを閾値を持って判断するということは苦手です。認知は得意ですが、計測は苦手です。1mmはNGだが0.9mmはパスというようなものをAIで判断させようとすると膨大な教師データが必要です。AIで欠陥を認識させ光学的に計測するようなハイブリットなソリューションが良いとある企業から教わりました。

5. 遠隔管理・遠隔監視

5Gおよびクラウドにより遠隔管理・遠隔監視の新しいソリューションが今後具体化されていきます。

遠隔管理のために、サイバー空間に現実世界の3D実像を再現することが重要な技術になってくると考えます。現在もVR/AR/MRといった技術が進みヘッドマウントディスプレーでの作業が現実味を帯びてきました。ただし、最終的には高精細な3Dなバーチャル映像を遠隔で見られるようになることが我々の更なる望みではないでしょうか。CPS、サイバーフィジカルシステムによりサーバー空間にて開発を行い、現実世界に戻すようなことも例えば自動車の開発ではすでに行われています。車両だけではなく、町全体までもサイバー空間に表現し、その中で架空の車両を運転させ、開発を進めるというものです。ただし、こうした4K/8Kの高精細映像を例えば海外とやり取りをする技術は、情報量の多さと通信帯域の制限から相当先になると考えています。製造支援システムでは、すでにMR(Mixed Reality)による生産指示が行われていますが、5年ほど先にはヘッドマウントディスプレイをつけながらの製造はもとより、ビックデータを遅延なく伝送できる高精細3Dディスプレイ上のバーチャル空間で自分の分身(アバター)に作業させ、現場をリモートコントロールするようなCPS(サイバー・フィジカル・システム)が現実のものになると考えます。そのためにロボットスーツを装着した人と同じ動きをする分身ロボットも出現するかもしれません。これにより、人が働くには過酷な製造環境にあっても、安全に快適に、製造現場におらずとも生産することを可能とする商品が登場すると思われます。こうしたロボットで将来は高炉などの危険個所、遠く離れた海外工場で日本の技能者が遠隔で働くことが可能となり、究極には月面工場での素材や医薬品の生産等も10年後には可能となるかもしれません。

6. 3Dプリンター

3Dプリンターは様々なプラスチックに加え、Al、Ni、チタン等の金属でも造形が可能となってきました。どちらかというと私などは試作品を作るための3Dプリンターという位置づけで考えておりましたが、これからは量産品を3Dプリンターで作る、いわゆるアディティブ・マニュファクチュアリング(Additive Manufacturing)が広がってくると言われています。3Dプリンターの長所は複雑な造形が出来ることから、例えば20-30点で構成される複雑な部品群を一度に作ってしまうことができ、かつ設計データ、即生産データとして活用し、シミュレーションを活かしながら最適化が図れることにあります。金型も不要となりますし、材料の無駄も一切出ません。

さらに、3Dプリンターがグローバルの各拠点に配置してあれば、同時にリアルタイムに製品が作成され、かつ地産地消されるので物流を省く事が可能となります。現在は、比較的高額な部品への対応がなされていますが、こうしたコスト削減効果が見込め、少量多品種生産や単品生産には適しているかもしれません。

余談ですが、日本の製造業では、いわゆる金型や切削、モノを削ってものづくりをすることが得意にもかかわらず、こうした肉を盛りながら材料の無駄を出さずに行うアディティブ・マニュファクチュアリングは、欧米に大きくリードを許していると考えます。3Dプリンターの動向にも今後注目していった方が良いと考えています。

7. ローカル5G

製造についてのビックデータは、Volume:量、Velocity: 速度、Variety:多様性の3つの「V」が求められます。管理ポイントの増大に加え、リアルタイム性も重要な観点となります。例えば、製造現場における通信は、プログラムに対して0.1秒遅れるだけでも加工の失敗につながる。さらに1秒遅れてしまうと、ロボットと周囲の設備がぶつかる事故も起こりうります。こうした遅延を排除し、かつ工場のレイアウトを自由に設定できるための5Gの技術は重要です。5年後には超高効率の5G工場が出現すると予測されます。また伝送される画像も4K8Kの高精細な画質となるため、マイクロバンドを用いた伝送技術やMMT(MPEG Media Transport)といった新しい伝送方式が求められます。加えて、ローカル5Gの構内ではローカル回線は、5Gの周波数帯域、3.7GHz、4.5GHz、28GHzの中で、28GHzが割り当てられていますが、高周波数ゆえ直進性が高く、回り込みが無いことや、わずかな金属部品がアンテナとなってしまう技術的な困難さもあり、解決に数年を要すものと考えます。さらに10年間のスコープでは通信の限界領域であるシャノン限界に到達する中、日本の強みである光伝送6G技術も登場し、前述の3つの「V」に対応していく技術革新が見込まれます。

8. 真の意味の無人化工場

前述の非構造化データのIoTによるセンシングデータと、構造化データを基に進められてきた生産現場、生産管理との連携により、まずはIoTのデータがMES(Manufacturing Execution System): 製造実行システム ERP(Enterprise Resource Planning):基幹業務システムと連携し、非構造化データにより生産工程を調整し稼働させる仕組みが出現するだろうと考えます。また市場動向のデータや販売管理データ、配送データ、保守データ、在庫データを加味したAIソリューションにて生産量を決定し、部材の発注をかけるといった無人の生産計画システムも出現するでしょう。ロボット、自動運転AGVによる工場の無人化とも相まって、真の意味での超高効率な自律的な工場が将来可能となるのではないでしょうか。

9. 最後に

日々の仕事をしているとなかなか気づかないものですが、現在、第4次産業革命が進んでいます。第3次産業革命では、大型コンピューターによる企業の基幹システム制御、インターネットの出現、モバイル環境の広がりといったとても大きな変化を体感してきましたが、現在~今後のサイバーフィジカルシステムの変化はそのどれをも大きく凌駕すると言われています。また、コロナ禍にあって、デジタル化推進の機運は大きく高まってきていると感じます。ぜひ皆様もスマートファクトリー化を推し進めていただくことを願っております。

表:スマートファクトリーロードマップ、2019年から2030年までの市場レベル、商品レベル、技術レベル

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