中小IT企業の新事業としての独自サービス展開

第1回:下請け構造からの脱却に向けて

(公財)横浜企業経営支援財団 IoT窓口相談員
矢野 英治

2018/6/3

 総務省から公開されている平成29年版 情報通信白書によると、情報サービス業の2015年度売上高は17兆2,683億円です。構成割合をみると、受託開発ソフトウェア業が47.1%、情報処理サービス業が21.5%、パッケージソフトウェア業が6.6%となっていて、売上高全体のおよそ半分は受託ソフトウェア業で占められています。

 また、同白書には情報サービス業においては多重下請け構造が存在し、開発・制作部門における元請け・下請け別の企業数の割合は、資本金規模が大きくなるに従い、元請けの割合が増加し、下請けの割合が減少していること、さらに、資本金3億円以下の企業においては、50%以上の企業が下請けとして事業を行っていることが示されています。

 このことは、多くの中小IT企業は、下請け構造の中で事業を展開していることを示しており、この下請け構造の中に存在することによって、営業力の弱い企業においても、自社のリソースに合わせた安定した受注を獲得することにつながっています。

 一方で、下請けにおいては、ソフトウェア開発のコーディングやテストなどの下流工程を担当することが多く、元請けとの待遇における格差の存在や、技術者の能力開発のスピード低下などの問題を抱えることなり、技術者から見た企業の魅力という点においても不利益が生じています。

 昨今においては、外部環境の変化に柔軟に対応する事業戦略を実現するために、ITシステム開発においても、アジャイル開発と呼ばれるより柔軟な開発プロセスの採用や、外部のIT企業にシステム開発を丸投げするのではなく、自社内にIT技術者を抱える“技術者の内製化”などの変化が起こっており、今後ますますこのような状況が進んでいくものと思われます。

 今後将来にわたって現在の下請け多重構造が続く保証はなく、多くのIT企業の経営者は次の一手として、自社独自の製品やサービスを新たな事業の柱にしたいと考えることが一般的になってきました。

 しかしながら、元請けとしての経験不足や営業力不足、元請けからの指示で動く技術者という現状に加え、市場調査を含めた製品の企画力、上流工程での設計力、マーケティング力の不足によって、自社独自サービスの事業立ち上げには、苦労している会社が多いようです。

 このような現状を踏まえ、当コラムでは今後5回にわたって、新事業として独自製品や独自サービスを立ち上げる際に考えることや注意事項について記載していきたいと考えています。

次回以降、

「昨今注目のIT技術を活用したサービス企画」
「新事業としての独自製品・サービスのビジネスモデル」
「新事業展開に活用できる行政や支援団体の支援サービス、補助金、制度の紹介」
「新事業としての独自製品・サービスを成功させるための開発プロセス」
「新事業としての独自製品・サービスを成功させるためのマーケティング」

という内容で進めて行きたいと考えています。

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